「いつからわたしたちは,相手の名前を知らない,この社会に慣れたのだろう」。
quote:従来のP2Pファイル共有ではファイルを持つパソコンに直接接続するため,相手がすぐにわかり,多数の著作権侵害の訴訟が起きた。しかしいま,匿名性を持ったミュート(MUTE),アント(ANTs)というソフトが登場している。それらはほかの人を経由することでファイルを送信する。どんなに自分の望まないファイルを経由したとしても,郵便配達人を逮捕することができないように,ファイル転送の代理人は捕まえられないとアントの開発者は云う。弁護士は,通過しているパケットの内容をあなたが知らないなら,責任はないと述べている。人々は安全で効率的に情報をやりとりする方法をみつけるだろう。それは人々が望むものだからだ。ジュラシックパークにこんな言葉があった。「いのちは道をみつける(Life will find a way)」。
ある意味ではWinnyが世界の先端を走っていたファイル共有の匿名化は,少しずつ広がりをみせている。効率性を持てないフリーネット以外の選択肢としてミュートはかなり以前からあったが,それにアントが続き,高い匿名性のなかでいかに効率のよいファイルの転送をするか,両者が競っている印象がある。ミュートの方が使い始めやすいが,アントは効率性と匿名性で勝っている。いまのところだが,使いやすさ,効率性,匿名性のバランスがもっとも優れているソフトはまだWinnyである。だが,Winnyに対してなにもできずにただほえているだけの京都府警の変態のみなさんが恥をさらしているおかげで,ミュートとアントの開発が促進されているように感じる。強い匿名性を持ったファイル共有はまもなく実現するだろう。そしてファイル共有だけでなく,ネット上で情報をやりとりするすべての分野で相手がすぐに指差されるような状況は,消え去る。
「わたしに,一生涯愛することができる音楽を聴かせてくれた人を,わたしは知らない。わたしに,生活の危機から脱することができる役立つ教本を教えてくれた人を,わたしは知らない。わたしに,生きる意志を与えて絶望のふちから救い出す言葉を与えてくれた人を,わたしは知らない。ネットワークは,いつしかそのような場所となっていました。相手がわかることを利用して,社会の仕組みを壊し続けた人々がいたために。でもこの,相手がわからない社会は,不都合もいろいろあるけど,仕方ないこの社会のルールとなりました。そして,人は生きていくのです。生きるのに必要な道は,ここに用意されていたのですから」。
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